理事長 | 吉田 稔 |
理化学研究所環境資源科学研究センター 東京大学大学院農学生命科学研究科 |
本学会は1996年に鶴尾隆先生が中心となって創設されたがん分子標的治療研究会に始まり、2008年に日本がん分子標的治療学会となりました。研究会の発足からちょうど四半世紀を経て、当時はまだ夢物語と思われていた分子標的治療も今や広く展開される時代へと変化しました。本学会は初代理事長の鶴尾先生から曽根三郎先生、宮園浩平先生、長田裕之先生、そして中村祐輔先生へと引き継がれ、がんの分子標的治療の発展に大きく貢献してきました。その伝統を受け継ぎ、わが国が世界の分子標的治療の先頭を走るための環境を提供することが今後の学会の使命であると思います。そのためには、「連携と多様性」がとりわけ重要ではないかと考えております。
がんの分子標的治療とは、がん細胞のアキレス腱とも言えるがん細胞の増殖や生存にとって必須となる分子を発見し、それを狙い撃ちしてがんを撲滅する論理的な治療法のことです。これを実現し新しい治療薬を医療の現場に届けるためには、新たな分子標的の発見だけでなく、それを特異的に阻害する方法論や医薬品として開発する戦略を含め、多くの研究者のチームワークが必要になります。すなわち、分子標的の発見から治療薬の実現に至るまでに横たわる幾つかの谷を超えるには、異分野連携が不可欠です。さらに臨床研究に進むには、企業連携も重要です。新しい分子標的は必ずしも酵素のようなdruggableなものとは限らず、undruggableな標的に対しては中分子、抗体、核酸など多様なモダリティを駆使した戦略が必要です。よって本学会の重要な役割の1つは、異分野連携の機会を戦略的に作ることによって、"Make undruggable druggable"を実現することであると考えます。そのためには、より多くの分野の専門家や企業の参画が必要となります。本学会の法人会員数はここ数年、減少傾向にありますが、今後は法人会員や企業所属の個人会員が魅力を感じるような取り組みを継続、強化する必要があります。
分子標的治療という研究分野はまさに成長期の真っただ中にあり、がん治療における重要性はこれからも益々大きくなっていくと考えられます。その発展のためには、専門分野の多様性だけでなく、構成員の多様性と若手研究者の育成も本学会の重要な役割です。多くの若手研究者、女性研究者、外国人研究者などが気兼ねなく参加できる開かれた学会としていく必要があるでしょう。
「連携と多様性」の重要性は、これまでの学会運営においても十分意識され、すでに多くの取り組みが進められてきました。今後はこれまでの取り組みを継承するとともに、皆様のお知恵をお借りしてこれをさらに進め、1つでも多くのがん分子標的治療薬が実現できるように、多くの知が結集する開かれた学会運営を目指して微力を尽くしたいと考えております。
(令和3年6月)