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第2回TR

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がんのトランスレーショナルリサーチの推進について(提言)

最近、トランスレーショナルリサーチの重要性が活発に議論されており、がんの分野においても各方面でその必要性が叫ばれている。1980年代に始まった分子生物学の急速な進歩は、がんの発生・増殖・進展の機序解明に革新的役割を果たした。さらに、ヒトゲノムの全構造解読も近づき、がんの分子基盤は刻々明らかされている。その結果、分子標的治療の概念が生まれ、新しいがんの診断・治療法の創生をめざす気運が一気に昂揚している。すでに、がんの個性診断や分子標的治療という新しいコンセプトによる挑戦が始まっており、欧米では新しい分子標的薬剤の成功が報告されている。

わが国のがんの臨床をみると、三人に一人はがんで死亡するという憂うべき状況にある。新しいがん医療を速やかに発展させ、がんの克服を実現することは、国民の強い希望となっている。わが国のがんの基礎研究は国際的に高い評価を受けているが、その実用化・臨床への還元については、研究者の意識も高いとは言えず、それを支援・促進する基盤も整備されていない。診断、治療、さらには予防を含めたがん医療の新たな展開には、生命科学研究の成果を臨床へ還元していく一つ一つの過程を充実させることが必要であり、その過程に関わる全ての研究(トランスレーショナルリサーチ)の充実が同時に要求される。残念ながら、このトランスレーショナルリサーチは、欧米にかなり後れをとっていると言わざるを得ず、激化する国際競争の中で、その実現は、わが国の医療医薬品関連産業の生き残りと活性化、新たな雇用環境創出のための国家的戦略として重要な意味を持っている。

本ワークショップにおいては、がんのトランスレーショナルリサーチの推進と実現をめざして、産官学の様々な視点からその重要性と緊急性、人的ならびに法的、そして施設基盤の整備に向けての解決すべき課題や今後のあり方についてのアイデアが提案され、緊張した建設的討議がなされた。その結果、がんのトランスレーショナルリサーチの推進は今をおいてない、との結論に達し、提言としてとりまとめた。関係各方面の深いご理解と強いご支援をいただきたい。

がんのトランスレーショナルリサーチ推進への提言:

提言1. トランスレーショナルリサーチは、科学の進歩を国民の健康増進と産業の発展に直接結びつけるもので国家的プロジェクトと位置づける。
提言2. トランスレーショナルリサーチは、科学的ならびに医学的な根拠に基づき、十分な倫理的配慮の下に、迅速に行われるべきである。
提言3. 基礎から臨床へ至る一つ一つの過程において環境整備が必要である。

具体的には、次の課題が挙げられる。これらは、互いに連携し、整合性の取れた形で実現が計られるべきである。

課題1. 基礎研究のレベルアップ
・優れた生命科学研究の推進
・子標的研究の推進
課題2. 人材の育成
トランスレーショナルリサーチを担当する研究者・医師、治験コーディネーター/リサーチナース、生物統計学者、データマネージャー、臨床薬剤師などの育成
課題3. 産官学の連携
課題4. 施設基盤の整備
がん先端医療を全国的に行える観点からの臨床研究実施機関の設立/認定
課題5. 支援基盤の整備
・財政支援の確立
・支援機関の設立(仮称:トランスレーショナルリサーチ支援センター、リソーシス活用、臨床研究に持ち込む準備、資金援助などを行う)
・ 支援機関と実施機関の連携のための支援プログラム及びネットワークの確立
・ トランスレーショナルリサーチの審査および評価を行う委員会の国レベルあるいは機関レベルでの設置と標準化
・ トランスレーショナルリサーチの国民に向けた広報と啓蒙・啓発活動
・知的財産権を保護し、活用化するシステムの確立
課題6. 法的な基盤整備
・新GCPによる規制の妥当性の検討/関連法の整備
・産官学の緊密な連携を促進する制度の確立
・医療補償制度の整備

説明
トランスレーショナルリサーチとは、生命科学研究の成果をもとに、有望な診断・治療ならびに予防法を開発し、これを速やかに実用化し、患者へ還元するための研究である。

平成14年9月3日

 

がん分子標的治療研究会第2回ワークショップ
「トランスレーショナルリサーチ:その実現への道のり」

   がん分子標的治療研究会
   日本癌学会
   文部科学省科学研究費補助金特定領域研究
   「がん研究の総合的推進に関する研究」


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